校長 その日その日
Principal Day by day
Principal Day by day
2025/07/23
梅雨明けすぐに猛暑が襲ってきました。
今週25日をもって、本校は1学期を終えます。実際は来週から「夏期講習」が連続するのですが、一応の区切りではあります。
先週、山梨交流合宿の引率の際、朝食後に一時的に部屋に戻った際、何気なくNHKテレビをつけると、朝の連続テレビ小説が放映中でした。
ご存じの方もいると思いますが、漫画家やなせたかしさん(1919ー2013)の配偶者をヒロインとしたドラマで、俳優さんと相まってなかなか好評と聞きます。
見ながら、以前読んだ『アンパンマンの遺書』(やなせたかし著、岩波現代文庫)を思い出しました(以下、2023・3/10の当コラム再掲・加筆)。
――やなせたかしさんは、パンを擬人ヒーロー化したキャラクターの原作者として知られます。
しかし本人は ”ずっと日陰の人生”、無名時代が長かったと回顧しています 。
戦争に出征し、中国で終戦を迎えたときすでに27歳。家族はもともと離散していたうえ、大切な弟さん(大変優秀な方だったそうです)も戦死していたことを復員して知ります。(ドラマでもその憂いがよく表現されていました)
しかも戦後、世の中の価値観はがらりと一変。
やなせさんが悟ったのは、
「ぼくは優れた知性の持ち主ではない。(中略)日本の戦争は聖戦で、正義の戦いと言われればそのとおりと思っていた」(同書)
「しかし正義の戦いなんてどこにもないのだ。正義は或る日逆転する。正義は信じがたい。ぼくは骨身に徹してこのことを知った」(〃)
これはやなせさんの思想のもととなり、後にパンのキャラクターの原点にもなったと述懐しています。ただし生み出されるのはずっと後の、やなせさんが50代になってからのこと。
氏はヒット作のない漫画家として、兼業しながら30年近い無名時代を送り、ようやく1973年に創作絵本の仕事が回ってきます。その中の1冊としてかのキャラクター主人公の絵本を送り出しました。
同絵本のあとがきには、
「ほんとうの正義というものは、けっしてかっこうのいいものではないし、必ず自分も傷つくものです」「そういう捨て身、献身の心なくしては正義は行えません…」
とあるそうです。相手が幼児という冷酷な批評者だからこそ、「子供だまし」ではない哲学的なメッセージを込めるよう心掛けたといいます。(当初出版社内では「もう書かないでくれ」といわれるくらい不評だったという!)
――まもなく80年目の終戦記念日がやってきます。
海外ではいまだウクライナや中東情勢に収束の気配が見えません。
一方、先日の参議院選挙の期間中も、特定の候補者や政党から、外国人や女性差別ともとれる主張が繰り返されました。
非常に「分かりやすい」主張、「(本当に事実なのか)分からないものを攻撃する」主張、「これが正義だ」と言わんばかりの主張ほど耳を疑いたいものだ、と常々思っていたところへ、やなせさんの話を思い出し、再掲した次第です。
やなせさんのキャラクターが実在したら、この世をどのように眺めるのでしょう。
利他の心、「正義」を振りかざすことへの批判精神。校訓「愛知和」にも通じると感じ、そして自分こそそうなってはいけない、と思い直したことです。
追伸――25日(金)、「立教大学公開講演会」として池上 彰氏※が生徒対象に講演に来てくださいます(保護者の方もご参加いただけます)。※立教大学客員教授
演題「歴史から読み解く世界情勢の行方」、生徒たちからもすでに質問をお伝えしているということで、今から非常に楽しみです!