校長 その日その日

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2024/07/24

(7/24)ちょっと待って、「人それぞれ」―終了集会(高校)

山梨交流合宿を楽しんできた高1、秋の海外研修を控えた高2、受験本格化の高3…。

楽しく親睦を深め、あるいは勉強に集中できているように見えますが、それでいて常に友人関係の悩みに尽きないのが高校生です。

22日(月)、高校の終了集会では、そんな夏前の彼らの心が軽くなればと、次の講話をしました。

<高校>

皆さん「ちょっと今、人間関係が息苦しいな」って人はいませんか? 後ろの先生方、人間関係息苦しくないですか?(教員笑い)今日はそう感じている人のための話です。

 

学校の図書室で『「人それぞれ」がさみしい』という本を手にしました※。石田充規(みつのり)さんという早稲田大学の先生の本です。

今、多様性、「個の尊重」ということはSDGsにもうたわれ、時代の潮流となっていますね。私も校訓愛知和の「和」は多様性といっている。

 

ところが石田さんは、多様性のもとに「私はこう思うけど、あの人は〇〇という考えか、そうだよね“人それぞれ”だもんね…」という反応に、危うさを感じているという。

「人ぞれぞれ」は一見、相手を尊重する言葉のようで、実は人間関係の希薄化、他人を突き放す側面があるいいます。

 

つまり「人それぞれ」は、「相手を否定しないこと」だから、友人とつながりを保つためには、お互い否定し合わないよう気を遣う。

お互い「よい」顔しか見せられない。簡単にケンカもできない、友達関係が壊れちゃうから。

結果、友人といると疲れるから、独りの方がいい、となる。同時に、踏み込んだ会話ができないから自分の孤独感は強まってしまう。

どうですか、何か共感できるな、という人はいますか?(うなずく生徒あり)

 

実際、国内の調査では、「多少自分の意見をまげても、友人と争うのは避けたい」という若者は、2011年で6割~7割(女性が相対的に多い)に達し、逆に「友人と意見が合わないと納得いくまで話す」人は3割にとどまった。皆さんもやっぱりそう?

また国際的な調査でも、「寂しい」と感じる若者は日本と韓国が5~6割と、他国より突出して高いらしい。

 

それどころか、「人それぞれ」は自己責任論を生む。例えば低所得者は「人それぞれ」の選択でそうなったのだから、社会保障が使われるのはおかしい、という議論である。

 

一方、対立を避けた結果の「本当は私はこう思うんだけどな…」というモヤモヤした思いの行き場はどこへ?

そう、ネット上。共感を求めて「そうだよねそうでしょう私もそう」という意見ばかりが集まる。それが極端化、過激化したものがヘイト活動だ。

 

多様性を大事にした「人それぞれ」が、孤立や対立、分断を生む。難しい問題だ。

では私たちはどうしたらよいのだろう。

 

石田先生は特効薬的なものはないけど、「人をコスパで見ないこと」といっています。

自分にプラスになる人とだけ付き合う、のではなく、人には良い面も悪い面もあるという当然の事実を認めて付き合おう、というのです。

人づき合いをコスパで考えてしまうと、結果として自分に返ってきます(他の人に自分がコスパ悪いなって思われていたら嫌でしょう?)

 

だったら、他人への期待値を下げて、良い面も悪い面もあると思って付き合っていくことが、結果として自分も他人から切り離されないことになります。

 

最近人間関係が息苦しいな、と感じている人の参考になれば、と思います。

『「人それぞれ」がさみしい』、中学生向けに書かれているからすぐ読めます。図書室へ。

※ちくまプリマ―新書

(追記)

校長講話にしては珍しく、生徒の口に膾炙かいしゃしたようで、放課後「人それぞれってさぁ…」と話していた生徒がいたとか…講話の寿命記録の更新です(笑)

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